。
「さては首尾よく仇を討たれたか……そして、予定のごとく泉岳寺へ……」
彼はその華々《はなばな》しい進退行蔵《しんたいこうぞう》を目の当り見るような気がした。堀部安兵衛|武庸《たけつね》の名も出ている、横川勘平宗房の名も出ている。が、毛利小平太の名は? もちろん、そこに出ていようはずはない。彼は義士たちの明るい功名を想いやるにつけて、いよいよ自分の眼の前が暗くなるような気がした。
「どうしよう、俺はどうしよう?」
こう呟きながら、彼は手を負った獣のように走りだした。が、どこへ行く宛もない。両国の橋を渡れば、もうじきそこが松坂町の吉良邸である。彼はそこへ近づくことを一番恐れているくせに、やっぱりここへ来てしまった。が、今ごろそこへ行って何になろう?
「ああ、俺はもうどこへも行く所がない!」
もちろん、彼にはまだおしおの家があった。が、こうなった上は、もうおしおにも逢われる身ではない。今ごろ顔を見せたら、あの女がどんなに落胆《がっかり》して、どんなに泣くことであろう! 事によったら、自分を軽蔑するあまり、物をも言わずに突き出してしまうかもしれない。
で、女にも逢われないとすれば、
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