、ただの三文! ええ、大評判の大仇討、もうこれだけしかない、売れきれぬうちにお早く、お早く!」
「吉良……浅野浪士!……」という声が耳に入った時、小平太は思わず足を留めた。そして、群集の頭越しに、喚売《よびうり》の男の顔をじっと穴の開くほど見詰めていたが、何と思ったか人込みを分けて、つかつかと前へ進み出で、
「おい呼売、一枚くれ!」と喚《よ》んだ。
「へえありがとうさま、一枚! もう後は五六枚しかありませんよ」
彼は手に掴《つか》んだ小銭を渡して、それを受取るなり、群集の眼を恐れるように、こそこそと薄暗い横丁へはいって行った。ひろげてみると、なるほど大石内蔵助をはじめ寺坂吉右衛門に到るまで――中にはもちろん間違ったのもあるが――同志の名をずらりと並べて、この方々は、去年三月殿中において高家の筆頭吉良上野介に斫《き》りつけ、即日切腹、お家断絶となった主君浅野内匠頭の泉下の妄執《もうしゅう》を晴さんために、昨夜吉良邸に乗こんで、主君の仇上野介の首級《しるし》を揚げ、今朝泉岳寺へ引取って、公儀の大命を待っている。お上ではただ今老中方御評議の真最中だと、事の概略《あらまし》が載《の》せてある
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