て、出かけてきている。それだのに、自分は今生死の境に立って、新《あらた》に妻を迎えたと、それも内密《ないしょ》で、拵《こしら》えたと、そんなことがどうしてお頭の耳に入れられよう? ばかな!」
 そう思うとともに、きゅうに身繕《みづくろ》いして、
「誠に長座をして失礼いたしました」と、諸士に一礼して立ち上った。
「おお小平太どの、お帰りか。何か太夫に火急な用事でもあったのではござらぬか。お急ぎなら、吾々からお取次ぎいたそうか」と、口々に言ってくれた。が、そんな明らさまに、他人に言われるような用事ではない。
「いや、ありがとうはござりますが、さしたることでもござりませぬ。おりもあらば、また重ねて参上しまして」と言い捨てたまま、そこそこにその隠宅を出てしまった。
 彼は真直に林町の宿へ戻ってきた。そして、一間《ひとま》に閉じ籠ったまま、誰とも顔を合せないようにしていた。彼としては、何よりもおしおにした約束を果さなかったことが気に懸った。こうなれば、あの女はもう自分の死後も自分の妻と名告《なの》ることはできない。妻も子も永遠に日蔭の身である。もっとも、同志の士は皆妻子を離別してきたというが、そ
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