さい。」
「これ等のものがこれまであった事柄の影法師だとは、私からお前さんに云って置いたじゃないか」と、幽霊は云った。「あれがあの通りだからと云って、私を咎めては不可ないよ。」
「どこかへ連れて行って下さい!」と、スクルージは叫んだ。「私にはもう見て居られません!」
彼は幽霊の方へ振り向いた。そして、幽霊が、それまで彼に見せたいろんな人の顔が妙な工合にちらちらとそこに現われているような顔をして、じっと自分を見詰めているのを見て、どこまでも幽霊と揉み合った。
「貴方もどこかへ行って下さい! 私を連れ帰って下さい。もう二度と私の所へ出て下さるな!」
この争闘の間に――幽霊の方では少しも目に見えるような抵抗はしないのに、敵手がいくら努力してもびくとも動じないと云うような、これが争闘と称ばれ得るものなれば――スクルージは幽霊の頭の光が高く煌々と燃え立っているのを見た。そして、幽霊の自分の上に及ぼす勢力とその光とを朧げながら結び着けて、その消化器の帽を引っ奪って、いきなり飛びかかってそれを幽霊の頭の上に圧し附けた。
精霊はその下にへちゃへちゃと倒れた。その結果、精霊はその全身を消化器の中に
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