到、そして、何の防禦用意もない担夫に向って一斉に突撃が試みられた! それから椅子を梯子にして、その男の体躯に這い上りながら、その衣嚢《かくし》に手を突き込んだり、茶色の紙包みを引奪《ひったく》ったり、襟飾りに獅噛み着いたり、頸の周りに抱き着いたり、背中をぽんぽん叩いたり、抑え切れぬ愛情で足を蹴ったりが続く! 包みが拡げられる度に、驚嘆と喜悦の叫声でそれが迎えられた。赤ん坊が人形のフライ鍋を口に入れようとしているところを捕えただの、木皿に糊づけになっていた玩具の七面鳥を呑み込んじゃったらしい、どうもそれに違いないのだと云うような、怖ろしい披露! ところが、これは空騒ぎに過ぎなかったと分って、やれやれと云う大安心! 喜悦と感謝と有頂天! それがどれもこれも皆等しく筆紙に尽くし難い。で、その内にはだんだん子供達とその感動とが客間を出て、長い間かかって一段ずつ、階子段をやっと家の最上階まで上って行って、そこで寝床に這入ると、そのまま鎮まったとさえ云えば、沢山である。
 そして、今やこの家の主人公が、さも甘ったれるように娘を自分の方へ凭れ掛けさせながら、その娘やその母親と一緒に自分の炉辺に腰を卸
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