っ子連がやったように彼女の腰に抱き着くなんてことは、私には到底出来ないことだ。そんな事をすれば、私はその罰として腰の周りに私の腕が根を生やしてしまって、もう再び真直に延びないものと予期しなければならない。然も、実際を白状すると、私は堪らなく彼女の唇に触れたかったのだ。その唇を開かせるために、彼女に言葉を懸けて見たかったのだ。その伏眼がちの眼と睫毛を見詰めながら、しかも顔を赧らめさせずに置きたかったのだ。髪の毛を解いてゆるく波打たせて見たかったのだ。その一インチでも価に積もれないほど貴重な記念品になるその髪の毛を。一口に云えば、私は、まあ白状するがね、このもっとも重大な子供の特権を有しながら、しかもその特権の価値を知っているほどの大人でありたかったのだ。
ところが、今や入口の扉を叩く音が聞えた。すると、たちまち突貫がそれに続いて起って、彼女はにこにこ笑いながら、滅茶々々に着物を引き剥がされたまま、顔を火照らした騒々しい群れの真中に挟まれて、やっと父親の出迎いに間に合うように、入口の方へ引き摺られて行った。父親は、聖降誕祭の玩具や贈物を背負った男を伴れて戻って来たのである。次には叫喚と殺
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