脚になり、また二十本脚になり、また頭のない二本脚になり、また胴体のない頭だけになると云うように、その瞭然《はっきり》した部分が始終揺れ動いていた。で、それ等の消えていく部分は濃い暗闇の中に溶け込んでしまって、その中に在っては輪廓一つ見えなかったものだ。そして、それを不思議だと思っているうちに、幽霊は再び元の姿になるのであった、元のように瞭然《はっきり》として鮮明な元の姿に。
「貴方があのお出での前触れのあった精霊でいらっしゃいますか」と、スクルージは訊ねた。
「左様!」
その声は静かで優しかった。彼の側にこれほど近く寄っているのではなく、ずっと触れてでもいるように、へんてこに低かった。
「何誰《どなた》で、またどういう方でいらっしゃいますか」と、スクルージは問い詰めた。
「私は過去の聖降誕祭の幽霊だよ。」
「ずっと古い過去のですか」と、スクルージはその侏儒のような身丈《せい》恰好《かっこう》に眼を留めながら訊いた。
「いや、お前さんの過去だよ。」
たとい誰かが訊ねたとしても、恐らくスクルージはその理由を語ることが出来なかったろう。が、彼はどう云うものか、その精霊に帽子を被せて見たい
前へ
次へ
全184ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森田 草平 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング