ものだと云う特別な望みを抱いた。で、それを被るように相手に頼んだ。
「何!」と幽霊は叫んだ、「お前さんはもう俗世界の手で、私の与える光明を消そうと思うのか。俗衆の我欲がこの帽子を拵えて、長の年月の間にずっと私を強いて無理に額眉深にそれを被らせて来たものだ。お前さんもその一人だが、それだけでもう沢山じゃないかね。」
 スクルージは、決して腹を立てさせるつもりではなかった、また自分の一生の中いつの時代にも故意に精霊を侮辱した覚えなぞはないと、うやうやしげに弁解した。それから彼は思い切って、何用あってここへはやって来たのかと訊ねた。
「お前さんの安寧のためにだよ」と、幽霊は云った。
 スクルージはそれは大変に有難う御座いますと礼を述べた。しかし一晩邪魔されずに休息した方が、それにはもっと利き目があったろうと考えずにはいられなかった。精霊は彼がそう考えているのを見て取ったに違いない。と云うのは、すぐにこう云ったからである。
「じゃ、お前さんの済度のためだよ。さあいいか!」
 こう云いながら、幽霊はその頑丈な手を差し伸べて、彼の腕をそっと掴まえた。
「さあ立て! 一緒に歩くんだよ。」
 天気と時
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