造られたその脚も足も、上肢と同じく露出《むきだし》であった。幽霊は純白の長衣を身に着けていた。そして、その腰の周りには光沢のある帯を締めていたが、その光沢は実に美しいものであった。幽霊は手に生々《いきいき》した緑色の柊の一枝を持っていた。その冬らしい表徴とは妙に矛盾した、夏の花でその着物を飾っていた。が、その幽霊の身のまわりで一番不思議なものと云えば、その頭の頂辺《てっぺん》からして明煌々たる光りが噴出していることであった。その光りのために前に挙げたようなものが総て見えたのである。そして、その光りこそ疑いもなくその幽霊が、もっと不愉快な時々には、今はその腋の下に挟んで持っている大きな消灯器《ひけし》を帽子の代りに使用している理由であった。
 とは云え、スクルージがだんだん落ち着いてその幽霊を見遣った時には、これですらそれの有する最も不思議な性質とは云えなかった。と云うのは、その帯の今ここがぴかりと光ったかと想うと、次には他の所がぴかりと輝いたり、また今明るかったと思う所が次の瞬間にはもう暗くなったりするに伴れて、同じように幽霊の姿それ自体も、今一本腕の化物になったかと思うと、今度は一本
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