これ等の生物が霧の中に消え去ったのか、それとも霧の方で彼等を包んでしまったのか、彼には何れとも分らなかった。しかし彼等も、その幽霊の声々も共に消えてしまった。そして、夜は彼が家に歩いて帰った時と同じようにひっそりとなった。
 スクルージは窓を閉めた。そして、幽霊の這入って来た戸を検めた。それは彼が自分の手で錠を卸して置いた通りに、ちゃんと二重に錠が卸してあった。閂にも異常はなかった。彼は「馬鹿々々しい!」と云おうとしたが、口に出し掛けたまま已めた。そして、自分の受けた感動からか、それとも昼間の労れからか、それともあの世を一寸垣間見たためか、それとも幽霊の不景気な会話のためか、それともまた時間のおそいためか知らないが、非常に休息の必要を感じていたので、着物も脱がないで、そのまま寝床へ這入って、すぐにぐっすりと寝込んだ仕舞った。

   第二章 第一の精霊

 スクルージが眼を覚ましたときには、寝床から外を覗いて見ても、その室の不透明な壁と透明な窓との見分けがほとんど附かない位暗かった。彼は鼬のようにきょろきょろした眼で闇を貫いて見定めようと骨を折っていた。その時近所の教会の鐘が十五分鐘
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