責めるような慟哭の声が彼の耳に聞えて来たからである。幽霊は一寸耳を澄まして聴いていた後で、自分もその悲しげな哀歌に声を合せた。そして、物寂しい暗夜の中へうかぶように出て行った。
スクルージは、自分の好奇心に前後を忘れて、窓の所まで随いて行った。彼は外を眺め遣った。
空中は、落着きのない急ぎ足で彼方此方をうろつき廻り、そして、歩きながらも呻吟している妖怪変化で満たされていた。そのどれもこれもがマアレイの幽霊と同じような鎖を身につけていた、中に二三の者は(これは有罪会社の輩かも知れない)一緒に繋がれていた。一として縛られていないのはなかった。存命中スクルージに親しく知られて居たものも沢山あった。彼は、白い胴服《チョッキ》を着て、踵に素晴らしく大きな鉄製の金庫を引きずっている一人の年寄の幽霊とは生前随分懇意にしていたのであった。その幽霊は、下の入口の踏段の上に見えている赤ん坊を連れた見すぼらしい女を助けてやることが出来ないと云うので、痛々しげに泣き喚いていた。彼等全体の不幸は、明かに、彼等が人事に携わってそれを善くしようと望んでいて、しかも永久にその力を失ったと云う所にあるのであった。
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