方の妹を追い廻わした様子というものは、誰も知らないと思って人を馬鹿にしたものであった。火箸や十能に突き当たったり、椅子を引っくり返したり、洋琴に打っ突かったり、窓帷幄に包まって自分ながら呼吸が出来なくなったりして、彼女の行く所へはどこへでも随いて行った。彼はいつでもその肥った娘がどこに居るかを知っていた。彼は他の者は一人も捕へようとしなかった。若し諸君がわざと彼に突き当りでもしようものなら(彼等の中には実際やったものもあった)、彼も一旦は諸君を捕まえようと骨折っているような素振りをして見せたことであろうが、――それは諸君の理性を侮辱するものであろう、――直ぐにまたその肥った娘の方へ逸れて行ってしまったものだ。彼女はそりゃ公平でないと幾度も呶鳴った。実際それは公平でなかった。が、到頭彼は彼女を捕まえた。そして、彼女が絹の着物をさらさらと鳴らせたり、彼を遣り過ごそうとばたばた藻掻いたりしたにも係らず、彼は逃げ場のない片隅へ彼女を追い込めてしまった。それからあとの彼の所行というものは全く不埒千万なものであった。と云うのは、彼が自分に相手の誰であるかが分からないと云うような振りをしたのは、彼女の頭飾りに触って見なけりゃ分らない、いや、そればかりでなく、彼女の指に嵌めた指環だの頸の周りにつけた鎖だのを抑えて見て、やっと彼女であることを確かめる必要があるような振りをしたのは、卑劣とも何とも言語道断沙汰の限りであった。他の鬼が代ってその役に当っていたとき、二人は帷幄の背後で大層親密にひそひそと話しをしていたが、彼女はその事に対する自分の意見を聞かせたに違いない。
 スクルージの姪はこの目隠し遊びの仲間には入らないで、居心地のよい片隅に大きな椅子と足台とで楽々と休息していた。その片隅では精霊とスクルージとが彼女の背後に近く立っていた。が、彼女は罰金遊びには加わった。そして、アルファベット二十六文字残らずを使って自分の愛の文章を見事に組み立てた。同じようにまた『どんなに、いつ、どこで』の遊びでも彼女は偉大な力を見せた。そして、彼女の姉妹達もトッパーに云わしたら、随分敏捷な女どもには違いないが、その敏速な女どもを散々に負かして退けた。それをまたスクルージの甥は内心喜んで見ていたものだ。若い者年老った者、合せて二十人位はそこに居たろうが、彼等は皆残らずそれをやった。そして、スクルージもま
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