い。で、その結果はどうだと云うのだい? 大層な御馳走を喫べ損ったと云う訳でもないがね。」
「実際、あの方は大層結構な御馳走を喰べ損ったんだと思いますわ」と、スクルージの姪は相手を遮った。他の人達も皆そうだと云った。そして、彼等は今御馳走を喰べたばかりで、食卓の上に茶菓を載せたまま、洋灯を傍にして煖炉の周囲に集まっていたのであるから、十分審査官の資格を具えたものと認定されなければならなかった。
「なるほど! そう云われれば僕も嬉しいね」と、スクルージの甥は云った。「だって、僕は近頃の若い主婦達に余り大した信用を置いていないのだからね。トッパー君、君はどう思うね?」
 トッパーはスクルージの姪の姉妹達の一人に明らかに眼を着けていた。と云うのは、独身者は悲惨《みじめ》な仲間外れで、そう云う問題に対して意見を吐く権利がないと返辞したからであった。これを聞いて、スクルージの姪の姉妹――薔薇を挿した方じゃなくて、レースの半襟を掛けた肥った方が――顔を真赧にした。
「さあ、先を仰しゃいよ、フレッド」と、スクルージの姪は両手を敲きながら云った。「この人は云い出した事を決してお終いまで云ったことがない。本当に可笑しな人よ!」
 スクルージの甥はまた夢中になって笑いこけた。そして、その感染を防ぐことは不可能であったので――肥った方の妹などは香気のある醋酸でそれを防ごうと一生懸命にやって見たけれども――座にある者どもは一斉に彼のお手本に倣った。
「僕はただこう云おうと思ったのさ」と、スクルージの甥は云った。「あの人が僕達を嫌って、僕達と一緒に愉快に遊ばない結果はね、僕が考えるところでは、些《ちっ》ともあの人の不利益にはならない快適な時間を失ったことになると云うのですよ。確かにあの人は、あの黴臭い古事務所や、塵埃だらけの部屋の中に自分一人で考え込んでいたんじゃ、とても見附けられないような愉快な相手を失っていますね。あの人が好《す》こうが好くまいが、僕は毎年こう云う機会をあの人に与える積りですよ。だって僕はあの人が気の毒で耐らないんですからね。あの人は死ぬまで聖降誕祭を罵っているかも知れない。が、それについてもっと好く考え直さない訳にゃ行かないでしょうよ――僕はあの人に挑戦する――僕が上機嫌で、来る年も来る年も、『伯父さん、御機嫌はいかがですか』と訪ねて行くのを見たらね。いや、あの憐れな書記
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