も一同を祝福したまわんことを」と、皆の一番後からちび[#「ちび」に傍点]のティムが云った。
彼は阿父さんの傍にくっついて自分の小さい床几に腰掛けていた。ボブは彼の痩せこけた小さい手を自分の手に握っていた。あたかもこの子が可愛くて、しっかり自分の傍に引き附けて置きたい、誰か自分の手許から引き離しやしないかと気遣ってでもいるように。
「精霊殿!」と、スクルージは今までに覚えのない興味を感じながら云った。「ちび[#「ちび」に傍点]のティムは生きて行かれるでしょうか。」
「私にはあの貧しい炉辺に空いた席と、主のない撞木杖が大切に保存されてあるのが見えるよ。これ等の幻影が未来の手で一変されないで、このまま残っているものとすれば、あの子は死ぬだろうね。」
「いえ、いいえ」と、スクルージは云った。「おお、いえ、親切な精霊殿よ、あの子は助かると云って下さい。」
「ああ云う幻影が未来の手で変えられないで、そのまま残っているとすれば、俺の種族の者達はこれから先|何人《だれ》も」と、精霊は答えた、「あの子をここに見出さないだろうよ。で、それがどうしたと云うのだい? あの児が死にそうなら、いっそ死んだ方がいい。そして、過剰な人口を減らした方が好い。」
スクルージは精霊が自分の言葉を引用したのを聞いて、頭を垂れた。そして、後悔と悲嘆の情に圧倒された。
「人間よ」と、精霊は云った、「お前の心が石なら仕方ないが、少しでも人間らしい心を持っているなら、過剰とは何か、またどこにその過剰があるかを自分で見極めないうちは、あんな好くない口癖は慎んだが可いぞ。どんな人間が生くべきで、どんな人間が死ぬべきか、それをお前が決定しようと云うのかい。天の眼から見れば、この貧しい男の伜のような子供が何百万人あっても、それよりもまだお前の方が一層下らない、一層生きる値打ちのない者かも知れないのだぞ! おお神よ、草葉の上の虫けらのような奴が、塵芥の中に蠢いている饑餓に迫った兄弟どもの間に生命が多過ぎるなぞとほざくのを聞こうとは!」
スクルージは精霊の非難の前に頭を垂れた。そして、顫えながら地面の上に眼を落とした。が、自分の名が呼ばれるのを聞くと、急いでその眼を挙げた。
「スクルージさん!」と、ボブは云った。「今日の御馳走の寄附者であるスクルージさんよ、私はあなたのために祝盃を上げます。」
「御馳走の寄附者ですって
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