竿が高く樹《た》っていたが、それも他に移って、今では立派な紳士の邸宅になっている。

     西郷星

 かの西南|戦役《せんえき》は、わたしの幼い頃のことで何んにも知らないが、絵草紙屋《えぞうしや》の店にいろいろの戦争絵のあったのを記憶している。いずれも三枚続きで、五銭くらい。また、そのころ流行《はや》った唄に、
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 ※[#歌記号、1−3−28]紅《あか》い帽子《シャッポ》は兵隊さん、西郷に追われて、
 トッピキピーノピー。
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 今思えば十一年八月二十三日の夜であった。夜半《よなか》に近所の人がみな起きた。私の家でも起きて戸を明けると、何か知らないがポンポンパチパチいう音がきこえる。父は鉄砲の音だと云う。母は心配する、姉は泣き出す。父は表へ見に出たが、やがて帰って来て、「なんでも竹橋《たけばし》内で騒動が起きたらしい。時どきに流れだまが飛んで来るから戸を閉めて置け。」と云う。わたしは衾《よぎ》をかぶって蚊帳《かや》の中に小さくなっていると、暫《しばらく》くしてパチパチの音も止《や》んだ。これは近衛《このえ》兵の一部が西南|役《えき》の論
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