能の状態にあった。劇場当事者の方でも強《し》いて求めようとはしなかった。いわゆる玄人と素人との間には大いなる溝《みぞ》があった。
もう一つには、団菊左《だんきくさ》と云うような諸名優が舞台を踏まえていて、たとい脚本そのものはどうであろうとも、これらの技芸に対する世間の信仰が相当の観客を引き寄せるに何らの不便を感ぜしめなかったからである。こういう種々の原因が絡《から》み合って、内部と外部との中間には、袖萩《そではぎ》が取りつくろっている小柴垣《こしばがき》よりも大きい関が据えられて、戸を叩くにも叩かれぬ鉄《くろがね》の門が高く鎖《と》ざされていたのであった。
「どうぞお慈悲にただ一言《ひとこと》……。」
お君《きみ》の袖乞いことばを真似るのが忌《いや》な者は、黙って門の外に立っているよりほかはなかった。
ところが、やがて其の厳しい門を押し破って、和田《わだ》合戦の板額《はんがく》のように闖入《ちんにゅう》した勇者があらわれた。その闖入者は松居松葉《まついしょうよう》君であった。この門破りが今日の人の想像するような、決して容易なものではない。松葉君の悪戦は実に想像するに余りある位で
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