根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。
六
昔はめったに無かったように聞いているが、温泉場に近年流行するのは心中沙汰《しんじゅうざた》である。とりわけて、東京近傍の温泉場は交通便利の関係から、ここに二人の死に場所を選ぶのが多くなった。旅館の迷惑はいうに及ばず、警察もその取締りに苦心しているようであるが、容易にそれを予防し得ない。
心中もその宿を出て、近所の海岸から入水《じゅすい》するか、山や森へ入り込んで劇薬自殺を企てるたぐいは、旅館に迷惑をあたえる程度も比較的に軽いが、自分たちの座敷を舞台に使用されると、旅館は少なからぬ迷惑を蒙《こうむ》ることになる。
地名も旅館の名もしばらく秘して置くが、わたしが曾《かつ》てある温泉旅館に投宿した時、すこし書き物をするのであるから、なるべく静かな座敷を貸してくれというと、二階の奥まった座敷へ案内され、となりへは当分お客を入れない筈であるから、ここは確かに閑静であるという。成程それは好都合であると喜んでいると、三、四日の後、町の挽地物《ひきぢもの》屋へ買物に立ち寄った時、偶然にあることを聞き出した。ひと月ほ
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