再びともして、カーテンの間から窓の外をのぞくと、雨の雫《しずく》は栗の葉をすべって、白い花が暗いなかにほろほろ[#「ほろほろ」に傍点]と落ちていました。
 夜の雨、栗の花、蝋燭の灯、アーヴィングの宿った家――わたしは日本を出発してから曾《かつ》て経験したことのないような、しんみりとした安らかな気分になって、沙翁の故郷にこの一夜を明かしました。明くる朝起きてみると、庭には栗の花が一面に白く散っていました。[#地付き](大正八年五月、倫敦にて――大正8・7「読売新聞」)
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ランス紀行


 六月七日、午前六時頃にベッドを這《は》い降りて寒暖計をみると八十度。きょうの暑さも思いやられたが、ぐずぐずしてはいられない。同宿のI君をよび起して、早々に顔を洗って、紅茶とパンをのみ込んで、ブルヴァー・ド・クリシーの宿を飛び出したのは七時十五分前であった。
 How to See the battlefields――抜目のないトーマス・クックの巴里《パリ》支店では、この四月からこういう計画を立てて、仏蘭西《フランス》戦場の団体見物を勧誘している。われわれもその団体に加入して、きょうこの
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