積んだ馬が行く。方々の旅館で畳替えを始める。逗留客が散歩に出る。芸妓《げいしゃ》が湯にゆく。白い鳩が餌《えさ》をあさる。黒い燕《つばめ》が往来なかで宙返りを打つ。夜になると、蛙が鳴く、梟《ふくろう》が鳴く。門付《かどづ》けの芸人が来る。碓氷川《うすいがわ》の河鹿《かじか》はまだ鳴かない。
おととしの夏ここへ来たときに下磯部の松岸寺《しょうがんじ》へ参詣したが、今年も散歩ながら重ねて行った。それは「どうも困ります」の陰った日で、桑畑を吹いて来るしめった風は、宿の浴衣《ゆかた》の上にフランネルをかさねた私の肌に冷やびやと沁《し》みる夕方であった。
寺は安中《あんなか》みちを東に切れた所で、ここら一面の桑畑が寺内まで余ほど侵入しているらしく見えた。しかし、由緒ある古刹《こさつ》であることは、立派な本堂と広大な墓地とで容易に証明されていた。この寺は佐々木盛綱《ささきもりつな》と大野九郎兵衛《おおのくろべえ》との墓を所有しているので名高い。佐々木は建久《けんきゅう》のむかし此の磯部に城を構えて、今も停車場の南に城山の古蹟を残している位であるから、苔《こけ》の蒼い墓石は五輪塔のような形式でほ
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