困ります」と云うことにした。
 どう考えても、きょうも晴れそうもない。傘をさして散歩に出ると、到る処の桑畑は青い波のように雨に烟っている。妙義《みょうぎ》の山も西に見えない。赤城《あかぎ》、榛名《はるな》も東北に陰っている。蓑笠《みのかさ》の人が桑を荷《にな》って忙がしそうに通る、馬が桑を重そうに積んでゆく。その桑は莚《むしろ》につつんであるが、柔らかそうな青い葉は茹《ゆ》でられたようにぐったりと湿れている。私はいよいよ痛切に「どうも困ります」を感じずにはいられなくなった。そうして、鉛のような雨雲を無限に送り出して来る、いわゆる「上毛《じょうもう》の三名山」なるものを呪わしく思うようになった。

 磯部には桜が多い。磯部桜といえば上州の一つの名所になっていて、春は長野《ながの》や高崎《たかさき》、前橋《まえばし》から見物に来る人が多いと、土地の人は誇っている。なるほど停車場に着くと直ぐに桜の多いのが誰の眼にもはいる。路ばたにも人家の庭にも、公園にも丘にも、桜の古木が枝をかわして繁っている。磯部の若葉はすべて桜若葉であると云ってもいい。雪で作ったような向い翅《ばね》の鳩の群れがたくさんに
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