他の一人の槍がその脇腹にむかって突いて来ました。もうこれ迄《まで》です。男の血は槍や鳶口《とびぐち》や棒や鋤《すき》や鍬《くわ》を染めて、からだは雪に埋められました。検視の来る頃には男はもう死んでいました。
神官と山伏と下女とは即死です。ほかの四人は重傷ながら幸いに命をつなぎ止めました。わたしの案内者も負傷者を病院へ運んだ一人だそうです。
「そこで、その男は何者だね。」
わたしは縁台に腰をかけながら訊きました。くだりの路も途中からはもと来た路と一つになって、私たちはふたたび一本杉の金洞舎の前に出たのです。案内者も腰をおろして、茶を飲みながらまた話しました。
磯部から妙義へ登る途中に、西横野《にしよこの》という村があります。かの惨劇の主人公はこの村の生まれで、前年の冬に習志野《ならしの》の聯隊から除隊になって戻って来た男です。この男の兄というのは去年から行くえ不明になっているので、母もたいそう心配していました。すると、前に云った二十一日の朝、彼は突然に母にむかって、これから妙義へ登ると云い出したのです。この大雪にどうしたのかと母が不思議がりますと、実はゆうべ兄《にい》さんに逢ったと
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