《す》えている。そうして、多くの場合には二、三人で歩きくらべをする。急げば首が動く。動けば弥次郎兵衛が落ちる。落ちれば負けになるのである。ずいぶん首の痛くなる遊びであった。
どんぐりはそんな風にいろいろの遊び道具をわれわれに与えてくれた。横町の黒塀の外は、秋から冬にかけて殊《こと》に賑《にぎ》わった。人家の多い町なかに住んでいる私たちに取っては、このどんぐりの木が最も懐かしい友であった。
「早くどんぐりが生《な》ればいいなあ。」
私たちは夏の頃から青い梢《こずえ》を見上げていた。この横町には赤とんぼも多く来た。秋風が吹いて来ると、私たちは先ず赤とんぼを追う。とんぼの影がだんだんに薄くなると、今度は例のどんぐりに取りかかる。どんぐりの実が漸く肥えて、褐色の光沢《つや》が磨いたように濃くなって来ると、とかくに陰った日がつづく。薄い日が洩《も》れて来たかと思うと、又すぐに陰って来る。そうして、雨が時々にはらはら[#「はらはら」に傍点]と通ってゆく。その時には私たちはあわてて黒塀のわきに隠れる。樫の技や葉は青い傘をひろげて私たちの小さい頭の上を掩《おお》ってくれる。雨が止むと、私たちはすぐ
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