た。近所の宿でも三味線の音がきこえる。今夜はひどく賑やかな晩である。
十時入浴して座敷に帰ると、桂川も溢《あふ》れるかと思うような大雨となった。[#地付き](掲載誌不詳、『十番随筆』所収)
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春の修善寺
十年ぶりで三島《みしま》駅から大仁《おおひと》行きの汽車に乗り換えたのは、午後四時をすこし過ぎた頃であった。大場《だいば》駅附近を過ぎると、此処《ここ》らももう院線の工事に着手しているらしく、路ばたの空地《あきち》に投げ出された鉄材や木材が凍ったような色をして、春のゆう日にうす白く染められている。村里のところどころに寒そうに顫《ふる》えている小さい竹藪は、折りからの強い西風にふき煽《あお》られて、今にも折れるかとばかりに撓《たわ》みながら鳴っている。広い桑畑には時どき小さい旋風をまき起して、黄龍のような砂の渦が汽車を目がけてまっしぐらに襲って来る。
このいかにも暗い、寒い、すさまじい景色を窓から眺めながら運ばれてゆく私は、とても南の国へむかって旅をしているという、のびやかな気分にはなれなかった。汽車のなかに沼津《ぬまづ》の人が乗りあわせていて、三、四年まえの
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