んまく》が張り廻されていた。海の波は畳のように平らかであった。この老人たちは艫《ろ》をあやつりながら、声を揃えてかの舟唄を歌った。
それから幾十年の後に、この人々はふたたび孔雀丸に乗った。老いたるかれらはみずから艫擢《ろかい》を把《と》らなかったが、旧主君の前にあると同一の態度を以って謹んで歌った。かれらの眼の前には裃《かみしも》も見えなかった、大小も見えなかった。異人のかぶった山高帽子や、フロックコートがたくさんに列んでいた。この老人たちは恐らくこの奇異なる対照と変化とを意識しないであろう、また意識する必要も認めまい。かれらは幾十年前の旧《ふる》い美しい夢を頭に描きながら、幾十年前の旧い唄を歌っているのである。かれらの老いたる眼に映るものは、裃である、大小である、竹に雀の御紋である。山高帽やフロックコートなどは眼にはいろう筈がない。
私はこの老人たちに対して、一種尊敬の念の湧くを禁じ得なかった。勿論その尊敬は、悲壮と云うような観念から惹き起される一種の尊敬心で、例えば頽廃《たいはい》した古廟に白髪の伶人《れいじん》が端坐して簫《ふえ》の秘曲を奏している、それとこれと同じような感が
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