達堂下、此奥に林子平の墓あり」という木札を掛けている。寺は龍雲院というのである。
黒い門柱がぬっと立ったままで、扉《とびら》は見えない。左右は竹垣に囲まれている。門をはいると右側には百日紅《さるすべり》の大木が真紅《まっか》に咲いていた。狭い本堂にむかって左側の平地に小さな石碑がある。碑のおもては荒れてよく見えないが、六無斎《ろくむさい》友直居士の墓とおぼろげに読まれる。竹の花筒には紫苑《しおん》や野菊がこぼれ出すほどにいっぱい生けてあった。そばには二個の大きな碑が建てられて、一方は太政《だじょう》大臣|三条実美《さんじょうさねとみ》篆額《てんがく》、斎藤竹堂《さいとうちくどう》撰文、一方は陸奥守《むつのかみ》藤原慶邦《ふじわらよしくに》篆額、大槻磐渓《おおつきばんけい》撰文とある。いずれも林子平の伝記や功績を記したもので、立派な瓦家根の家の中に相対して屹立《きつりつ》している。なにさま堂々たるものである。
林子平はどんなに偉くっても一個の士分の男に過ぎない。三条公や旧藩主は身分の尊い人々である。一個の武士を葬った墓は、雨叩きになっても頽《くず》れても誰も苦情は云うまい。身分の尊い
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