ろう。あるいは農業に従事している者もあろう。栄枯浮沈、その人々の運命に因っていろいろに変化しているであろうが、とにもかくにも皆それぞれに何らかの希望をもって生きているに相違ない。この男には何の希望がある。無論、名誉はない。おそらく利益もあるまい。彼は洗い晒《ざら》しの着物を着て、木綿の袴を穿いて、人間の一生を暗い冷たい墓所の番人にささげているのである。
 土の下にいる政宗が、この男に声をかけてくれるであろうか。彼はわが命の終るまで、一度も物を云ってくれぬ主君に仕えているのである。彼は経ヶ峯《きょうがみね》の雪を払って、冬の暁に墓所の門を浄《きよ》めるのであろう。彼は広瀬川の水を汲んで、夏の日に霊前の花を供えるのであろう。こうして一生を送るのである。彼に取ってはこれが人間一生の務めである。名誉もいらぬ、利益もいらぬ、これが臣下の務めと心得ているのである。わたしは伊達家の人々に代って、この無名の忠臣に感謝せねばならない。
 こんなことを考えながら門を出ると、犬はふたたび吠えて来た。

 林子平の墓は仙台市の西北、伊達堂山の下にある、槿《むくげ》の花の多い田舎道をたどってゆくと、路の角に「伊
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