順で、すこぶる怜悧《れいり》な人間であった。
 高を雇い入れてから半月ほどの後に、遼陽《りょうよう》攻撃戦が始まったので、私たちは自分の身に着けられるだけの荷物を身に着けた。残る荷物はふた包みにして、高が天秤《てんびん》棒で肩にかついだ。そうして、軍の移動と共に前進していたのであるが、この戦争が始まると、雨は毎日降りつづいた。満洲の秋は寒い。八月の末でも、夜は焚火がほしい位である。その寒い雨に夜も昼も濡《ぬ》れていた為に、一行のうちに風邪をひく者が多かった。私もその一人で、鞍山店《あんざんてん》附近にさしかかった時には九度二分の熱になってしまった。
 他の人々も私の病気を心配して、このままで雨に晒《さら》されているのは良くあるまいというので、苦力の高を添えて私を途中にとどめ、他の人々は前進することになった。鞍山店は相当に繁昌している土地らしいが、ここらの村落の農家はみな何処《どこ》へか避難して、どの家にも人の影はみえない。高は雨の中を奔走して、比較的に綺麗な一軒のあき家を見つけて来てくれた。そこへ私を連れ込んで、彼は直ぐに高梁《コーリャン》を焚いて湯を沸かした。珈琲《コーヒー》に砂糖を
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