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   ※[#ローマ数字1、1−13−21] 思い出草

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思い出草


     赤蜻蛉

 私は麹町《こうじまち》元園町《もとぞのちょう》一丁目に約三十年も住んでいる。その間に二、三度転宅したが、それは単に番地の変更にとどまって、とにかくに元園町という土地を離れたことはない。このごろ秋晴れの朝、巷《ちまた》に立って見渡すと、この町も昔とはずいぶん変ったものである。懐旧の感がむらむらと湧く。
 江戸《えど》時代に元園町という町はなかった。このあたりは徳川《とくがわ》幕府の調練場となり、維新後は桑茶栽付所となり、さらに拓《ひら》かれて町となった。昔は薬園であったので、町名を元園町という。明治八年、父が初めてここに家を建てた時には、百坪の借地料が一円であったそうだ。
 わたしが幼い頃の元園町は家並がまだ整わず、到るところに草原があって、蛇《へび》が出る、狐《きつね》が
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