呪い殺すよりも、いっそこっちから彼を突き放してしまう方が優《ま》しだと考えた。彼に対する面当てに、自分のからだを次郎左衛門に売り渡してしまおうと決心した。
 八橋はそれを次郎左衛門に頼んで、次郎左衛門も承知した。その以来彼女は努めて栄之丞のことを思うまいと念じていた。次郎左衛門の見る前で手ずから焼き捨てた起請と共に、むかしの恋は冷たい灰になったものと諦めようとしていた。栄之丞がきょう思いがけなく訪ねて来たというのを聞いた時に、彼女は逢うまいかと躊躇した。
 逢うまい。いつまでも打っちゃって置いて焦《じ》らしてやれ。そうして、今まで焦らされていたこっちの身の苦しさを思い知らしてやれと、彼女はいつまでも次郎左衛門のそばを離れなかった。彼女は名代部屋にぼんやりと待ち侘びている男の寂しそうな顔を頭に描きながら、それを下物《さかな》にこころよく酒を飲んでいた。しかし、茶屋の女の催促を受けては、茶屋に対する義理として彼女も顔出しをしない訳にはゆかなくなったので、渋々ここへ来て見ると、栄之丞の口から思いも寄らない秘密を聞かされた。
 次郎左衛門の身代《しんだい》はもう潰れている。それを聞いた時に彼女
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