。
「わたしは稽古に出る先きだ。早く訳を言ってくれ」と、栄之丞も少し焦《じ》れ出した。
「申します。堪忍して下さい」
彼女が泣きながら訴えるのを聞くと、お光の奉公している三河屋のお内儀《かみ》さんは、よんどころない義理で二十両取りの無尽《むじん》にはいっていた。きょうは代籤《だいくじ》でそれが当ったというので、お光は深川までその金を受取りの使いにやらされた。昼間だから大丈夫だろうが、それでも気をおつけよとお内儀さんは注意した。お光は橋場の寮を出て深川へ行った。
世話人がいるとか居ないとかいうので、お光はしばらくそこに待たされた。二十両の金をうけ取って深川を出たのはもう七つ(午後四時)さがりで、陰った日は早く暮れかかった。おまけに雪さえちらちら[#「ちらちら」に傍点]と落ちて来たので、お光は小きざみに足を早めて橋場へ帰って来る途中、吾妻橋《あずまばし》の上を渡りかかると、さっきから後を付けて来たらしい一人の男が、ふいに駈けて来てうしろからお光を突き飛ばした。彼女はひと堪まりもなくそこに突んのめると、男はすぐにその手から小さい風呂敷包みを引ったくろうとした。風呂敷には財布に入れた二十両
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