吉原へ行くのがなぜさびしいか、それは栄之丞には判らなかった。彼は黙っておとなしく聴いていた。
「奉公人が詰まらないことをしゃべったもんですから、八橋はわたくしに身請けをしてくれと言うのです」
八橋と自分との仲をうすうす覚った彼は、八橋を請け出すについて後日《ごにち》の苦情のないように縁切りの掛け合いに来たのであろうと、栄之丞は推量した。近頃はなるべく八橋と遠ざかるように心がけてはいたものの、彼女が自分には一言の相談もなしに次郎左衛門と身請けの話をすすめているかと思うと、栄之丞は決していい心持ちがしなかった。彼は火をあおいでいる扇の手を休めて、客の方に向き直った。
「ですが、わたくしに請け出されたら、栄之丞さん、八橋はお前さんをどうする気でしょう。いや、お隠しなさるには及びません。お前さんと八橋のことはもう知っています。それでも私はお前さんを正直な善い人だと思っています。わたくしはお前さんと喧嘩をする気にはなれない。いつまでも仲好くおつきあいをしていたいと思っている位です。そこで、お前さんに少し御相談があるんですが、聞いて下さいましょうか」
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