りも侘びしげな暮らしの有様を見て、次郎左衛門は可哀そうになった。大兵庫屋の八橋の情夫はこんなにおちぶれているのかと思うと、彼は可哀そうを通り越して、栄之丞を軽蔑するような心持ちの方が強くなって来た。自分の従弟――八橋はそう言っている――が不自由な暮らしをしているという事は、かねて彼女からも聞かされていたが、まさかこれ程とは思っていなかった。
 かすかな火種では容易に火が起らないらしく、栄之丞は破れた扇で頻《しき》りに炭を煽いでいた。
「こっちへ来たらば、一度はお訪ね申そうと思いながら、いつも御無沙汰をしていました。八橋に聞きましたら、この頃はちっとも廓《なか》の方へもお出でがないそうで……」
 栄之丞は蒼白い顔を少し紅くした。次郎左衛門が今夜なにしに来たのか、彼は一種の不安に囚われて碌々に返事もできなかった。
「私はこのあいだ雷門でお目にかかってから、ゆうべまで続けて八橋の所へまいりました」と、次郎左衛門はにこにこ[#「にこにこ」に傍点]しながら言い出した。「今夜も行こうかと思って宿を出ましたが、途中でなんだか寂しくなったので、ふい[#「ふい」に傍点]とこちらへ伺おうと思い立ちました」
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