ては、どうしても男らしい態度を取り得なかった。
 今夜は酒を飲んでもいい心持ちに酔えなかった。ほかに二、三人の客がはいって来て、何かいそがしそうに話していたが、それも次郎左衛門の耳へははいらなかった。彼は自分でも不思議なくらいに今夜は寂しく感じた。それはなぜだか判らなかった。
 彼は子供の時のことをふと思い出した。それは歳暮にでも持って行くらしい紙鳶《たこ》をぶらさげた職人の客がはいって来たからであった。彼は故郷の広い野原で紙鳶をあげた昔の春がそぞろに恋しくなった。その頃の喧嘩友達の名なども急に思い出された。
「治六がいなくなったせいではない」
 しいてそう思いながらも、やはり治六に離れたのが寂しかった。宿の亭主も自分の味方ではないらしかった。そんなことを考えると、彼は我ながら意気地がないと思うほどに寂しかった。いつもの彼の魂はどこへか抜け出してしまったように思われた。碌に酔いもしないで茶漬屋を出た彼は、これからどうしようかとまた迷った。吉原へ行くのはどうも気おくれがした。さりとてこのまま宿屋へ帰る気にもなれなかった。彼はただ無暗に寂しかった。この遣る瀬ない寂しさを打ち消すには、理屈も
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