思った。
「吉原へ行こうか、行くまいか」と、彼は立ち停まって思案した。雷門はもう眼の前に立っていた。
今夜行ったら八橋がまたゆうべの身請け話をくりかえすかも知れない。いつもいつも曖昧な返事ばかりもしていられない。治六のお蔭で自分はどうにもこうにもならないことになった。いっそ正直に今の身の上を打明けて、とても人並の身請けなどはできないと断わろうか。それが潔白で一番いいのであるが、それを聴いて八橋がなんと思うか、次郎左衛門はすこぶる不安心であった。彼は八橋にこんなことを聞かせたくなかった。ふところに金のある間は、なるべく佐野の大尽で押し通していたかった。
彼は酒が飲みたくなった。今夜は宿屋で夕飯の膳に徳利《とくり》の乗っていないのを発見したが、彼は酒を持って来いとも言わなかった。宿の亭主もなんだか治六の味方をしているらしいのが、彼の癪にさわっていたからであった。どこへ行っても酒は飲めると、彼は碌々《ろくろく》に飯も食わずに宿を飛び出してしまったのであった。吉原へ行けばなんでも勝手なものが食える――それを知りながら彼は並木通りの小さな茶漬屋の暖簾《のれん》をくぐった。吉原へ行こうか、行く
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