はこんなことを言った。
「八橋さんの花魁《おいらん》は、大尽がお越しになったのでさぞお喜びでござりましょう。そう申してはいかがですが、花魁もことしの暮れはちと手詰まりの御様子でしてね」
「可哀そうに……。たんと金がいるのかね」と、次郎左衛門が訊いた。
「さあ、どんなものでござりましょうか。わたくし共も詳しいことは存じませんが、なんでも浮橋《うきはし》さんからそんな話がござりました」
浮橋というのは八橋の振袖新造《ふりそでしんぞう》で、治六の相方であった。
「そうか。おい、治六。貴様どうかしてやれよ」と、次郎左衛門は笑った。
治六はにっこりともしないで、黙って酒を飲んでいた。
そうでなくても、主人は金を遣いたがっているところへ、花魁が手詰まりだなどという噂を聞かされては堪まったものではない。治六はもう逃げて帰りたくなった。
女中の迎いを受けて浮橋がさきへ来た。女房と女中が階下《した》へ立ったあとで、浮橋は花魁がこの年の暮れに手詰まりの訳を話した。それも五十両ばかりあればいいのだが、さてその工面《くめん》が付かないのは情けないと言った。次郎左衛門はたったそれだけでいいのかと笑った。
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