治六は渋々ながら付いて行くことになった。二人とも髪月代《かみさかやき》をして、衣服を着替えて出た。ここであくまでも逆らったところで仕方がない。ともかくも残りの半分にさえ手を着けなければまあいいと、治六も諦めを付けていた。
二人が駕籠で廓《くるわ》へ飛ばせたのは昼の八つ(午後二時)を少し過ぎた頃であった。雷門《かみなりもん》の前まで来ると、次郎左衛門を乗せた駕籠屋の先棒が草鞋の緒を踏み切った。その草鞋を穿き替えている間に、次郎左衛門は垂簾《たれ》のあいだから師走の広小路の賑わいを眺めていたが、やがて何を見付けたか急に駕籠を出ると言った。
駕籠を出ると、彼は小走りに駈けて行った。呼び止められたのは、編笠《あみがさ》をかぶった若い男であった。
「栄之丞さんじゃあございませんか」
編笠の男は宝生栄之丞であった。
「おお、次郎左衛門どの。また御出府《ごしゅっぷ》でござりましたか」と、彼は笠をぬいで丁寧に会釈《えしゃく》した。
「江戸が懐かしいので又のぼりました」と、次郎左衛門は笑った。八橋に変ることはないかと取りあえず訊いた。
臆病らしい態度で栄之丞は始終挨拶していた。自分も久しく無沙汰
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