栄之丞はうすら眠いような心持ちになって、どんよりした眼でふたたび吉原の空を見た。春の癖とはいいながら、晴れた空でも少しはなれた廓の上は煙るように霞んでいた。
 ゆうべは八橋から手紙を受取った。きょうは妹に一度は行ってくれと頼まれた。しかも、このうららかな春の日にあぶられて、栄之丞の肉も心もおのずと春めいて来た。ともかくも一度八橋に逢って、起請を焼いたわけを聞いて見ようかというような未練もおこった。次郎左衛門がこの頃ちっとも来ないという訳も聞きたかった。
 この際よし原に入り込んでも次郎左衛門と顔を合わせる気づかいはあるまいという一種の安心もあった。ちょうど天気もよし、いっそ今夜行って見ようと、彼はふらふらとその気になった。別に用もないからだであるので、彼はそれから髪結床へ行って、その帰りに湯にもはいって来た。
 今夜八橋に逢って、起請を焼いたわけも判って、次郎左衛門ももう来ないと決まったら、これから後はどうするか。やっぱりもとの通りに八橋との縁をつなぐか、それともあくまでも彼女の冷たい心を恐れてなんとか縁をきる工夫をするか。栄之丞もまだそこまではよく考え詰めていなかった。ゆうべの八橋の
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