の小遣いの多くはお絹の貢物《みつぎもの》であった。彼もこの場合には、お絹のところへ無心に行きたくなかった。用人や給人にももう幾許《いくら》ずつか借りているので、この上に頼むわけにはいかない。質屋を口説くにしたところで、金目になりそうなものを持っていない。さりとて大小を質に置くわけにもいかない。林之助もこれには行きづまった。それでも彼はどうしても幾らかの金が欲しかった。無理な工面《くめん》をしても直ぐに外神田へ飛んで行って、泣き腫らしているお里の眼の前へ、その金をずらりと投げ出してやりたかった。
「こういう時に人間は悪気《わるぎ》を起すのだ。出来るものなら俺も定九郎でも極《き》めたい」
彼はこんな途方もないことまで考えた。そうして、自分でぎょっとしてあとさきを見まわした。彼の足は行くともなしに両国橋を渡りかけていた。橋番の小屋で放し鰻を買って、大川へ流してやっている人があった。林之助はその財布を引ったくって逃げたかった。
焦《じ》れてもあせってももう仕様がない。ひとの物に眼をかけるよりも、いっそお絹に借りた方が無事である。ほかに使う金と違って、これをお絹から借り出すのは何分にも心苦し
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