れられて、おのずと涙を誘い出された。
 そのうちに鮓が来た。お里はすぐに燗の支度をした。自分はちっとも飲めないと言ったが、それでも無理に二、三度は猪口《ちょこ》を受取った。林之助も飲んだ。酒の酔いが若い二人を誘って、だんだんに明るい華《はな》やかな方へ連れ出した。林之助も軽い冗談をいった。お里も袂を口に掩いながら笑った。彼女はもう酔ったといって、夢見る人のようにうっとりとしていたが、雨の音がざっとまた強くなったので、お里は縁側へ出て、まばらに閉めてあった雨戸をばたばた[#「ばたばた」に傍点]と閉め切ってしまった。林之助も起って手伝ってやった。
「どうも済みません」
「なあに、ここの家《うち》へお婿に来たんだから」と、林之助はお里の肩を軽くゆすって笑った。
 どこかで雨漏《あまも》りがするらしく、天井の裏でときどきにしずくの落ちる音がほとほと[#「ほとほと」に傍点]と聞えるのも寂しかった。紙のすすけた行燈の灯は陰ったようにぼんやりと暗かった。二人はしばらく黙って火鉢の前にむき合っていた。
 四つ少し前に林之助は帰ったが、阿母《おふくろ》はそれまで帰って来なかった。今夜も林之助は幾らか包ん
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