八方から意地のわるい眼で睨まれているようで、林之助はなにぶんにも居ごこちが悪いので、ろくろく挨拶もせずにふい[#「ふい」に傍点]と表へ出てしまった。彼の腰のまわりは寂しかった。そのうしろ姿を見送って、内ではくすくす笑う声も洩れきこえた。
「けしからん奴らだ」
林之助は腹が立って堪まらなかった。彼はふところにまだ一両二歩の銀《かね》が残っているので、近所の軍鶏《しゃも》屋へ又はいった。悲しみと怒りとがもつれ合って、麻のように乱れている胸の苦しみを救うために、彼はたんとも飲めない酒を無暗に飲んだ。
「このあいだもここで飲んで、それからお里の家《うち》へ行ったのだ。今夜はどこへ行こう」
彼は丸腰で屋敷の門をくぐれないことを考えた。もう今頃からどこへ行っても、大小をうけ出す銀の才覚もできそうもない。さりとてお絹の家へ引っ返す気にもなれないので、林之助は行くさきに迷った。酔いも手伝って彼はもう自棄《やけ》になった。今夜もこれからお里の家へ行こうと思った。お絹はもう死んでいる、お里のおふくろも死んでいる、だれにも遠慮気兼ねもいらないと思った。軍鶏屋を出ると、彼の足は外神田へむかった。
めずら
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