て立つ林之助の眼には涙のあとが乾かなかった。
 引っ返して内へはいると、隣りのおばあさんが留守番役にひとり坐っていた。林之助は彼女からお絹の臨終の有様などを詳しく聞いた。お絹が最後にお里の名を呼んだのを知って、彼はまたぞっ[#「ぞっ」に傍点]とした。
 寺は深川で、見送りの人たちも四つ(十時)前にはみな帰って来た。なぜか知らないが、みな林之助に対して無愛想で、彼に悔みの口上をいう者は一人もいなかった。豊吉やお若もわきを向いていてほとんど挨拶もしないばかりか、豊吉は時どき当てこすりらしい毒口《どくぐち》さえ放った。それも畢竟《ひっきょう》は屋敷の物堅い掟《おきて》を知らないで、いちずに自分を不人情の人間と恨んでいるせいであろうと林之助も察していたが、今となってはいちいちその言い訳をするのも面倒であった。武士が大小まで手放して来たほどの切《せつ》ない心はお前たちには判るまい。おれの心は仏がよく知っている筈だと、彼は肚《はら》のなかでかれらの無智をあざけっていた。
 そのうちに小屋主は気がついて林之助に注意した。
「失礼でございますが、旦那様、お腰の物は……。こんな混雑の時でございますから、
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