の市《いち》の売物になろうという生姜《しょうが》の青い葉や紅い根には、白い露と柔かい泥とが一緒にぬれてこぼれていた。江戸じゅうの混雑を一つに集めたかと思われるような両国にも、暮れゆく秋の色と匂いとが漲《みなぎ》っているように見えるのが、このごろの薄寒い朝の景色であった。その青物の露を蹈《ふ》んで、林之助は橋を渡った。
「あら、いらっしゃい」
格子をあけると、お君はすぐに駈け出して来た。うす暗いお絹の枕もとには楽屋番の豊吉も坐っていた。前芸のお若もしょんぼりと坐っていた。いつも留守番を頼むという隣りのお婆さんもぼんやりと屈《かが》んでいた。どことなしに薬のけむりがしめって匂っていた。
「おや、いらっしゃい」と、豊吉は振り返ってまず声をかけた。そうして、すぐに入口へ起って来た。
「旦那。いけませんぜ。あれほど私が言って置いたのに……。あなたはどうも不実ですぜ。きょうはよっぽどお迎いに出ようと思っていたんですが……」と、彼は林之助をたしなめるように言った。
「いや、なにしろ御用が忙がしいんでどうもこうもならねえ。あしたは節句という忙がしいなかを、きょうはようよう抜け出して来たくらいなんだか
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