も早い方がいい、一寸《いっすん》逃がれに日を延ばしてゆくほどいよいよ二進《にっち》も三進《さっち》もいかないことになる。
彼女はお里の母の初七日《しょなのか》でも済んだ頃にもう一度その家へたずねて行って、おだやかに別れ話をきめようと思った。自分はそれほど無慈悲な男でもないが、こうなったらどうも仕方がないと、林之助は悲しく諦めた。こうした諦めを付けるまでには、彼の眼からは男らしくもない涙が幾たびかにじんだ。
その日は御用があって、林之助はどこへも出られなかった。きょうもきっと来てくれとお君に口説かれたことを思いながらも、彼はどうすることも出来なかった。彼はお絹の怨みを恐れながらも、とうとう両国橋を渡る機会がなかった。あくる日もまた忙がしかった。彼は白金や渋谷の果てまで使いにやられた。この頃は意地の悪いように屋敷の用があるので、彼はすこし焦《じ》れったくなって来た。なるほどお絹のいう通り、屋敷奉公をやめた方が気楽かも知れないと思うこともあった。
しかし林之助は大小を捨てて町人になろうとは思わなかった。お絹の縁に引かれながらも、手ぶらでいつまでも彼女の厄介になっていたくもなかった。屋敷
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