つものように火鉢の前で襤褸《ぼろ》とじくりなどをしていた。ひる飯を食ってしまって、台所へ茶碗小鉢を洗いに出ると、彼女はだしぬけに倒れた。その物音に驚かされて駈けつけて来た時には、彼女はもう生きている人ではなかった。それからすぐに両国へ使いをやって、お里はころげるように駈けて帰ったが、とても間に合う筈はなかった。そんな話をして、お里は声を立てて泣いた。
 林之助はかの二歩を紙につつんで出した。もっとどうにかしたいのだが思うように行かないから、差しあたりはこれで堪忍してくれといった。お里は頂いて、それを隣りのおかみさんに渡した。おかみさんが葬式万端の世話を焼いているらしかった。おかみさんは受取ってすぐに仏前に供えたが、二歩の重みは彼女《かれ》の注意を惹いたらしく、今更のように林之助とお里の顔をじろじろと見くらべていた。こうした家へ大小をさした人が悔みに来るのは、すこし不似合いであると見えて、ほかの女たちもみな林之助に眼をあつめて、今までべちゃべちゃしゃべっていた者も一度に口を結んでしまった。
 ここに長くいてはみんなの邪魔になると、林之助もさとった。どうで周囲に大勢の人がいては、お里と打解
前へ 次へ
全130ページ中104ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング