嬉しくもあった。きょうは幾らかの無心をいうつもりで来たのであったが、このありさまではとても言い出せないと彼は諦めていると、その銀が偶然手に入って、彼は拾い物をしたように嬉しかった。
 屋敷の用人から二歩借りて、袷や冬物の質請けをしたのは嘘ではなかったが、それは今すぐに返さないでもいい。この二歩があれば、お里の家へも顔出しができる。こう思うと、彼は今直ぐにもここを飛び出したくなった。今まではおちついて腰を据えていた彼も、銀をつかんで急に気が変った。お里のことも急に気にかかって、彼はなんだかそわそわして来た。しかしお君はまだ帰らない、あつらえ物もまだ来ない。殊に銀を貰ってすぐに逃げて帰るのも気が咎めるので、彼はおちつかない心持ちを無理に押し付けて、質《しち》に取られた人のようにおとなしく坐っていた。
 やがてお君は帰って来た。どうしてかきょうは注文が立て込んでいるので、鰻の出前はすこし手間が取れると言った。林之助はそれをいいしおに、自分は日が暮れるまでに屋敷へ帰らなければならないから、手間が取れるならばいっそ断わって来てくれと言った。
「飛ぶ鳥はあとを濁《にご》すなということもある。屋敷に
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