離魂病
岡本綺堂
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)江戸川端《えどがわばた》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あっ[#「あっ」に傍点]と
−−
一
M君は語る。
これは僕の叔父から聴かされた話で、叔父が三十一の時だというから、なんでも嘉永の初年のことらしい。その頃、叔父は小石川の江戸川端《えどがわばた》に小さい屋敷を持っていたが、その隣り屋敷に西岡鶴之助という幕臣が住んでいた。ここらは小身の御家人《ごけにん》が巣を作っているところで、屋敷といっても皆小さい。それでも西岡は百八十俵取りで、お福という妹のほかに中間《ちゅうげん》一人、下女一人の四人暮らしで、まず不自由なしに身分だけの生活をしていた。西岡は十五の年に父にわかれ、十八の年に母をうしなって、ことし二十歳《はたち》の独身者《ひとりもの》である。――と、まず彼の戸籍しらべをして置いて、それから本文に取りかかることにする。
時は六月はじめの夕方である。西岡は下谷《したや》御徒町《おかちまち》の親戚をたずねて、その帰り途に何かの買物をするつもりで御成道《お
次へ
全16ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング