なりみち》を通りかかると、自分の五、六間さきを歩いている若い娘の姿がふと眼についた。
西岡の妹のお福は今年十六で、痩形の中背の女である。その娘の島田に結っている鬢《びん》付きから襟元から、四入《よつい》り青梅《おうめ》の単衣《ひとえもの》をきている後ろ姿までがかれと寸分も違わないので、西岡はすこし不思議に思った。妹が今頃どうしてここらを歩いているのであろう。なにかの急用でも出来《しゅったい》すれば格別、さもなければ自分の留守の間に妹がめったに外出する筈がない。ともかくも呼び留めてみようと思ったが、広い江戸にはおなじ年頃の娘も、同じ風俗の娘もたくさんある。迂濶に声をかけて万一それが人ちがいであった時には極まりが悪いとも考えたので、西岡はあとから足早に追いついて、まずその横顔を覗こうとしたが、夏のゆう日がまだ明るいので、娘は日傘をかたむけてゆく。それが邪魔になって、彼はその娘の横顔をはっきりと見定めることが出来なかった。さりとて、あまりに近寄って無遠慮に傘のうちを覗くことも憚《はばか》られるので、西岡は後になり先になって小半町ほども黙って跟《つ》いてゆくと、娘は近江屋という暖簾《のれん》
前へ
次へ
全16ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング