をかけた刀屋の店先に足をとめて、内をちょっと覗いているようであったが、又すたすたと歩き出して、東側の横町へ切れて行った。
「つまらない。もうよそう。」と、西岡は思った。
 それがほんとうの妹であるか無いかは、家へ帰ってみれば判ることである。夏の日が長いといっても、もうだんだんに暮れかかって来るのに、いつまで若い女のあとを追ってゆくでもあるまい。物好きにも程があると、自分で自分を笑いながら西岡は爪先《つまさき》の方向をかえた。
 江戸川端の屋敷へ帰り着いても、日はまだ暮れ切っていなかった。庭のあき地に植えてある唐もろこしの葉が夕風に青くなびいているのが、杉の生垣《いけがき》のあいだから涼しそうにみえた。中間の佐助はそこらに水を打っていたが、くぐり戸をはいって来た主人の顔をみて会釈《えしゃく》した。
「お帰りなさいまし。」
「お福は内にいるか。」と、西岡はすぐに訊いた。
「はい。」
 それではやはり人ちがいであったかと思いながら、西岡は何げなく内へ通ると、台所で下女の手伝いをしていたらしいお福は、襷をはずしながら出て来て挨拶した。毎日見馴れている妹ではあるが、兄は今更のようにその顔や形をじ
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