。おまえによく似ているじゃあないか。」
 扇でさし示す方角に眼をやって、お福も小声で言った。
「自分で自分の姿はわかりませんけれど、あの人はそんなにわたくしに似ているでしょうか。」
「似ているね。まったく好く似ているね。」と、西岡は説明した。「しかもきょうで三度逢うのだ。不思議じゃあないか。」
「まあ。」
 とは言ったが、お福のいう通り、自分で自分の姿はわからないのであるから、かの娘がそれほど自分によく似ているかどうかを妹はうたがっているらしく、兄がしきりに不思議がっているほどに、妹はこの問題について余り多くの好奇心を挑発されないらしかった。
「ほんとうによく似ているよ。お前にそっくりだよ。」と、兄はくり返して言った。
「そうですかねえ。」
 妹はやはり気乗りのしないような返事をしているので、西岡も張合い抜けがして黙ってしまったが、その眼はいつまでもかの娘のうしろ姿を追っていると、奴《やっこ》うなぎの前あたりで混雑のあいだにその姿を見失なった。きょうは妹を連れているので、西岡はあくまでもそれを追って行こうとはしなかったが、二度も三度も妹に生き写しの娘のすがたを見たということがどうも不思
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