ず、三度目の不思議に遭遇した。
それはあくる月の十三日である。きょうは盂蘭盆の入りであるというので、西岡は妹をつれて小梅の菩提寺へ参詣に行った。残暑の強い折柄であるから、なるべく朝涼《あさすず》のうちに行って来ようというので、ふたりは明け六つ(午前六時)頃から江戸川端の家を出て、型のごとくに墓参をすませて、住職にも逢って挨拶をして、帰り途はあずま橋を渡って浅草の広小路に差しかかると、盂蘭盆であるせいか、そこらはいつもより人通りが多い。その混雑のなかを摺りぬけて行くうちに、西岡は口のうちであっ[#「あっ」に傍点]と叫んだ。妹に生き写しというべき若い娘の姿が、きょうも彼の眼先にあらわれたからである。
西岡はあわてて自分のうしろを見かえると、お福はたしかに自分のあとから付いて来た。五、六間さきには彼女《かれ》と寸分違わない娘のうしろ姿がみえる。妹が別条なく自分のあとに付いている以上、所詮かの娘は他人の空似と決めてしまうよりほかはなかったが、いかになんでもそれが余りによく似ているので、西岡の不審はまだ綺麗にぬぐい去られなかった。かれは妹をみかえって小声で言った。
「あれ、御覧、あの娘を……
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